徐々に日が西に傾き、辺り一面が茜色に染まりだしたとき、光たちは川沿いの閑静な場所にある酒屋にやってきていた。
慣れたように店内に入る立花は、愛想の良い店主に軽く声を掛けると、店主は全てを察したように直ぐに奥の部屋に通す。
途中、薄暗く湿った空気の漂う店の階段を上がっていたとき、ぎしぎしと不気味に木々が軋む音に、階段が崩落しないか不安に感じたのは致し方無いだろう。
部屋の中で腰を落ち着ける二人の前で、細々と動き回る従業員らしき者たちに何気なく目をやっていた光だが、女たちが運んでくる酒と料理の数々に眉をひそめた。
「……私は酒は飲まないぞ」
「ああ、下戸だったか」
まだ子供だな、と小馬鹿にしたように鼻で笑う立花に対し、光は片眉をつり上げると、語気を強めて「違う」と言い張る。
飲めない訳ではない。敵前でアルコールを入れたくないだけだ、と立花に語るにはそぐわないことを胸の内で呟いた。
従業員たちが全て部屋から出て行き、光と立花だけになったところで、立花は無造作に酒瓶を手に取ると、「下戸ではないなら出してみろ」と一言告げた。
直ぐに猪口のことだと分かった光は、しぶしぶそれを立花の前に差し出す。
「やっと飲み語らう気になったか」
・・・
「年長者に対する礼儀だ」
「昔は仕事が成功した度に飲んでいただろう。勝利の祝い酒だってな」
懐かしそうに昔を語る立花には嫌味は通用せず、毒気が抜かれる。
光は、立花が自分の猪口に自ら酒を注ごうとするのを見て、立花の酒瓶を仏頂面で奪い取ると、立花が持つそれに、なみなみと酒を注ぎ入れた。
「下川?」
「──あんたって本当に変わらないな」



