新撰組のヒミツ 弐



雪。その存在が光を脅かし続けていた。


光は彼女の権力というものを目の当たりにしたことはない。そもそも、彼女の正体すらも光には分からないのである。


だが、立花の彼女に対する畏怖は異常だった。それだけで、彼女は充分恐怖に値する。今も光の内側に無意識に君臨し続ける女だ。


立花が光に雪の言葉を届けるということは、まだ彼女と繋がりはあるのだろう。だが、立花は現在彼女のところを抜け出して長州側に属している。


(……いや、奴の言葉を信じるのか?)


流されかけた思考が一気に戻った。


雪がそれを許すとは考えがたい。裏切りは大罪。光も決死の覚悟で逃げ出したのだ。立花の場合も裏切りは許されない。


(雪様は立花が容認なさっている?)


あるいは、光に接触を掛けてくるのは雪の命令であるのかもしれない。


彼女は光を所有したがっていた──はずだ。光を裏切り者として処罰せず、もう一度戻るように言うのはそのためなのか。


どちらにしろ、光はもう二度と戻らない覚悟で抜け出したのだ。自分の意に沿わず、良いように利用されるのは我慢ならない。


ふいに立花は立ち止まって振り返ると、光の難しい表情を不思議に思ったのか、「どうした、行くぞ」と言って光を促す。


「そんなに辛気臭い顔をするなよ。何も、とって食おうとしてる訳じゃない」

「……元からこの顔だ」

「嘘を吐くな。少しくらい笑ったらどうだ」