新撰組のヒミツ 弐



先生。心臓が俄かに騒ぎ出すのが分かった。


何故、立花がそれを知っているのかが分からないが、奴の声を聞く限り、まるっきり嘘であるとも思えなかった。


今まで散々求めていた情報。もう、復讐に意味は無いと思ってはいるが、大切な先生の情報なら別だ。それが手を伸ばせば届くところにあるという。


──知りたい。思わずごくりと息を呑むと、それが聞こえたのか、間近にいる奴がふん、と馬鹿にしたように鼻で笑う。


光は拳を握り締め、強く目を瞑って思案した。先生のことを知りたいという感情が、理性をあっさりと吹き飛ばす。


先生の存在は、彼が死した今でも光にとって巨大である。抱えきれず、溢れ出して堰が壊れてしまう程に。


やはり、先生の事では冷静でいられない。


「……私がお前と一緒に飲むことで、お前には一体何の利益が出るんだ」


拒否はしなかった。そう尋ねたことで、立花はそれを肯定したと受け取ったらしく、ますます不気味に笑う。


「俺の気分が良くなる」


あっさりとそう言った立花は、疑念を露わにする光から離れると、浪士の方に向き直り「飲みに行ってくる」と言って歩き出す。


笠の下の顔は見えないが、身動き一つしない浪士はどうやら呆気に取られているようだった。彼の気持ちはよく分かる。


敵と酒を飲み交わすなんて馬鹿げている、と。


光も先程まではそうだった。立花は昔の友人とはいえ今や敵対している者。それだけではなく、裏の世界に身を置く奴と関わりを持つのは、余りにも危険である。