「性格が良かったら、もっと真っ当な仕事に就いている」
「お前には向いているな、この職は」
「ああ、天職だ」
浪士のため息が聞こえていないのか、立花は薄笑いを浮かべたままその表情を全く変えない。意外にも、なかなか息のあった組み合わせにも思われた。
光はそんな二人を先程から無言で眺めているのだが、彼らは恐ろしい程に隙がない。
隙をついて逃げ出したいのだが、これは敵前逃亡にあたるのだろうか、など思いを巡らせれば、足が地面に張り付いてなかなか動かなかった。
「……計画?」
光はふと小さく疑問を漏らした。
先程の立花の言葉である。長州の輩が企む『計画』というのは、光たち新撰組にとってみれば、あまり良いものとは言えないだろう。
光の言葉を耳聡く聞き取った立花は、みるみるうちに薄い唇の両端を吊り上げ、「そう、〝計画だ〟」とひっそり不気味に笑う。
「おい立花っ、それ以上は──」
浪士の慌てた制止。どうやら、計画というのは知られてはまずいことのようだ。教えてくれ、と頼んでも無駄なことだろう。
立花は「ああ、分かっている」と頷くと、彼は光の耳元に口を寄せ、楽しげな笑みを含んだ声で小さく囁いた。
「小さいことを言うなよ、下川。昔の馴染みと酒飲むくらい良いだろう。ただ一緒に飲みに行くだけだ。……その代わり一つ良いことを教えてやる」
昔と何ら変わらない声で、光は耳から毒されていく。蜘蛛の巣に捕らわれたことすら気付かない蝶が、気付かないまま喰らわれてしまう──。
「良いこと……って?」
「矢武鹿助の正体。どうだ、乗るか?」
「お前には向いているな、この職は」
「ああ、天職だ」
浪士のため息が聞こえていないのか、立花は薄笑いを浮かべたままその表情を全く変えない。意外にも、なかなか息のあった組み合わせにも思われた。
光はそんな二人を先程から無言で眺めているのだが、彼らは恐ろしい程に隙がない。
隙をついて逃げ出したいのだが、これは敵前逃亡にあたるのだろうか、など思いを巡らせれば、足が地面に張り付いてなかなか動かなかった。
「……計画?」
光はふと小さく疑問を漏らした。
先程の立花の言葉である。長州の輩が企む『計画』というのは、光たち新撰組にとってみれば、あまり良いものとは言えないだろう。
光の言葉を耳聡く聞き取った立花は、みるみるうちに薄い唇の両端を吊り上げ、「そう、〝計画だ〟」とひっそり不気味に笑う。
「おい立花っ、それ以上は──」
浪士の慌てた制止。どうやら、計画というのは知られてはまずいことのようだ。教えてくれ、と頼んでも無駄なことだろう。
立花は「ああ、分かっている」と頷くと、彼は光の耳元に口を寄せ、楽しげな笑みを含んだ声で小さく囁いた。
「小さいことを言うなよ、下川。昔の馴染みと酒飲むくらい良いだろう。ただ一緒に飲みに行くだけだ。……その代わり一つ良いことを教えてやる」
昔と何ら変わらない声で、光は耳から毒されていく。蜘蛛の巣に捕らわれたことすら気付かない蝶が、気付かないまま喰らわれてしまう──。
「良いこと……って?」
「矢武鹿助の正体。どうだ、乗るか?」



