仕方無い──とばかりに不満げな表情で頷いた立花は、ようやく光から刀の柄を外すと、光を自由にした。
過去はどこまで逃げでも、まるで影のように付き従う。その影を振り切ろうと逃げ惑う程に、影はますます猛威をふるって忍び寄る。
いつかのように、笠を押し上げて顎髭の生えた口元をにやりと歪ませる立花。
光が今感じるのは、強者とまみえたときの沸き立つような興奮ではなく、ただ重苦しい気怠さだけだった。
「立花……」
無言だった浪士が遂に口を開く。
「誠にその男を仲間にするつもりか? その男が例の新撰組の者なのだろう。何故むざむざと危ない橋を渡ろうとするのだ」
(同感……)
立花を宥めるように言った浪士は、立場は敵であるが、正しい思考の持ち主が現れたようで、光は心の底から安堵した。
声を聞く限り、案外と、光と歳は変わらないようにも思われる。だが、その口調はいかにも尊大であり、恐らくは年上であろう立花にも敬意はないらしい。
立花は鬱陶しそうに手を払った。
「こいつに言ったからといって、計画が新撰組に伝わる訳じゃない。下川も、俺のような奴と接触していると知られるのは避けたいはずだ」
「……性格の悪い……。全く、仲間に誘おうとしている奴の言葉とは思えん」
呆れた口調で言う浪士に、立花はとりとめ気にした風もなく、顎髭を触りながら薄気味悪く笑い、「まあな」と当たり前のように頷いた。
過去はどこまで逃げでも、まるで影のように付き従う。その影を振り切ろうと逃げ惑う程に、影はますます猛威をふるって忍び寄る。
いつかのように、笠を押し上げて顎髭の生えた口元をにやりと歪ませる立花。
光が今感じるのは、強者とまみえたときの沸き立つような興奮ではなく、ただ重苦しい気怠さだけだった。
「立花……」
無言だった浪士が遂に口を開く。
「誠にその男を仲間にするつもりか? その男が例の新撰組の者なのだろう。何故むざむざと危ない橋を渡ろうとするのだ」
(同感……)
立花を宥めるように言った浪士は、立場は敵であるが、正しい思考の持ち主が現れたようで、光は心の底から安堵した。
声を聞く限り、案外と、光と歳は変わらないようにも思われる。だが、その口調はいかにも尊大であり、恐らくは年上であろう立花にも敬意はないらしい。
立花は鬱陶しそうに手を払った。
「こいつに言ったからといって、計画が新撰組に伝わる訳じゃない。下川も、俺のような奴と接触していると知られるのは避けたいはずだ」
「……性格の悪い……。全く、仲間に誘おうとしている奴の言葉とは思えん」
呆れた口調で言う浪士に、立花はとりとめ気にした風もなく、顎髭を触りながら薄気味悪く笑い、「まあな」と当たり前のように頷いた。



