新撰組のヒミツ 弐

仕方無い──とばかりに不満げな表情で頷いた立花は、ようやく光から刀の柄を外すと、光を自由にした。


過去はどこまで逃げでも、まるで影のように付き従う。その影を振り切ろうと逃げ惑う程に、影はますます猛威をふるって忍び寄る。


いつかのように、笠を押し上げて顎髭の生えた口元をにやりと歪ませる立花。


光が今感じるのは、強者とまみえたときの沸き立つような興奮ではなく、ただ重苦しい気怠さだけだった。


「立花……」


無言だった浪士が遂に口を開く。


「誠にその男を仲間にするつもりか? その男が例の新撰組の者なのだろう。何故むざむざと危ない橋を渡ろうとするのだ」

(同感……)


立花を宥めるように言った浪士は、立場は敵であるが、正しい思考の持ち主が現れたようで、光は心の底から安堵した。


声を聞く限り、案外と、光と歳は変わらないようにも思われる。だが、その口調はいかにも尊大であり、恐らくは年上であろう立花にも敬意はないらしい。


立花は鬱陶しそうに手を払った。


「こいつに言ったからといって、計画が新撰組に伝わる訳じゃない。下川も、俺のような奴と接触していると知られるのは避けたいはずだ」

「……性格の悪い……。全く、仲間に誘おうとしている奴の言葉とは思えん」


呆れた口調で言う浪士に、立花はとりとめ気にした風もなく、顎髭を触りながら薄気味悪く笑い、「まあな」と当たり前のように頷いた。