新撰組のヒミツ 弐





「――俺、もうここには来うへん」


昼の稽古が終わり、御太郎と光が部屋で話をしていたときのこと。唐突に口を開いた御太郎は、何事もないように言って笑った。


あまりにも普通に言われたため、光は一瞬だけ何を言われたのか理解できない。


しばらく頭で意味を噛み砕いた後、冗談と思って浮かべた笑みは、彼の真剣な表情を目の当たりにして固まった。


「……え……ど、どうして……?」


「どうしてって言われてもなあ……。
師匠から沢山学ばせてもろたし、何より自分の時期を見誤りたくないんや」


「時期……。本当に……もう来ないの?」


縋るように尋ねれば、御太郎は苦笑いをして頷いた。悲しさに顔を俯ければ、彼は笑い声を立てて光の頭を撫でる。


そっと顔を起こして御太郎の顔を見つめてみれば、何か言いたげだが躊躇しているような目をしている彼と視線が噛み合った。


「御太郎は、あたしと先生と離れて寂しくないの!? 先生には言った? そんなふうに……そんなふうに何でもないことみたいに言わないでよ……」


「師匠には挨拶して来た。まあ、寂しくないっちゅうたら嘘になるねんけど、これは前から決めとったことさかいに」


強い口調で言った彼は、迷いを感じさせることなく背中を向けると、軽く手を上げた。そして、そのまま光の頭を軽く撫でた。

「光は俺が居らんようになったらどない?」


「嫌! 絶っ対に嫌だもん!
寂しいからここにいてよ……」


「……阿呆かて言われるかもしれへんけど、今めっちゃ嬉しいわ。光には師匠が居るやろ。独りやない、大丈夫や!

――ほんならな、光」


力ずくにでも引き留めたい衝動に駆られるが、本人が固めた意志だ。自分の道は自分で決めたいと語っていた彼だから、口を噤んで背中を見送った。


いつかまた、どこかで会えるようにと願いつつ、「またねー!!」と叫んで気丈に笑うことしか出来なかった。


このようにして、この日から早道御太郎は鹿助と光の前に姿を現さなくなった。