新撰組のヒミツ 弐

そう言って鹿助は光を掴む手に力を入れた。無様でも生き延びろ。その言葉からは、強い意志が伝わってくる。白くなった鹿助の指先を見つめ、光はただ頷いた。


「――先生もですよ」


「……何がだ」


「無様でも生き延びてくださいね」


約束のつもりでそう言うと、鹿助はふん、と鼻を鳴らして意地悪そうに笑った。


「当たり前だ。死ぬのには早すぎる。それに面倒を見なきゃならねえ奴がいるからな」


「それって、あたしですよね」


「他に誰がいる」


真顔で視線をつき合わせると、何故かそれが無性に可笑しく感じられ、ほとんど同時に噴き出してしまった。


しばらくした後に、再び力の入った鹿助の手から逃れようと思い切り力を入れた。







鹿助と暮らす毎日は幸せで。
御太郎と会う日は特に楽しみで。


未来にいたときよりも明るく笑顔が増え、嘘みたいに充実している毎日。煩わしい人間関係を考えずに済んでいるからかもしれない。


光がこの時代に来てから、早くも一年が過ぎようとしていた。その頃には、光自身の身に起きた不可解な出来事など、遠い昔の彼方であった。


鹿助から武術を学ぶ。そして、御太郎とは友人として仲を深める毎日は、光にとって真に幸せで楽しく――。





――家族のことは気がかりだが、たとえ、この世界が夢の中の話でも、もう二度と目覚めなくても構わないとさえ思い始めていた。