新撰組のヒミツ 弐

「俺が教えるのは、あくまで護身術だ。
肝に銘じておけ。分かったな」


「はいっ!」


自分の決断を悔いるように見える鹿助。彼がその決断を取り消さない内に、光は満面の笑顔を浮かべ、元気よく返事をした。


稽古を始めて開口一番「……女じゃねえ」という言葉を口走った鹿助に対し、光は彼をむっとした気持ちで見上げた。


「ちゃんと女です!」


どうやら、この時代には柔道衣というものは無いらしく、武術全般で使用される稽古衣を着て道場に入った。


柔術や剣術をよく知らない光は、とにかく持ち前の反射神経を十二分に活用し、ひたすら自己流で避け続けることに徹する。


鹿助は手加減していたようだが、光は必死で避け続けた結果、瞬殺されることは無かった。


その思わぬ動きに驚いた鹿助が、先のように声を上げたのだ。とはいえ、手も足も出なかったことも確かだ。


陸上で鍛えていた筋力や脚力だったが、彼の前では何の役にも立たなかったのだ。いや、彼を驚かす分には役立ったかもしれないが。


「未来の女の人はこれくらい普通です! だから特別あたしが下品だとか野蛮だとか、そんな訳じゃないんですよ!」


光は少し前、鹿助に自分の出自を伝えた。未来という遠く離れた場所は、あまりに遠く、虚しいほどに手に入らないところだ。


だが、鹿助の反応は限りなく薄く、これといった反応は何も無かった。ただ、光に尋ねたのは、これからもここに居たいのかというただ一点のみであった。


「……別にそこまでは言ってねえ」


「だから言われる前に言ったんです!」


両拳を握り締め、光はむくれた表情で鹿助の前に詰め寄った。


そんな彼女を冷たく見下すと、鹿助は光の言葉を見事に無視し、光の両手首をがっしりと掴む。


「とにかくだ。俺の拘束から逃げろ」


「え?……あの」


「護身術を使うのは自分の身を守るためだ。無様でも逃げ伸びて生きろ。命あっての物種だ。……分かるな?」