新撰組のヒミツ 弐



暗に礼儀知らずだと言われた光は、羞恥に顔を赤らめて唇を噛んだ。光に和の知識などないのだから致し方ないのだが、光の出自を知らない鹿助には卑しいとしか映らないに違いない。


「もういい、そこに座れ」


「……はい」


座るないなや、鹿助は光を視界に入れずに口を開く。先ほどの苛立ちは収まったように見えたが、顎に手をやった鹿助は、何故か意味ありげに笑って光を見やった。


「で、何が聞きたい」


「先生はなぜ怒っていたんですか」


「てめえには関係ねえ。他は」


「……何かあったんですか」


「ねえよ。くどい」


突き放すように言う鹿助に光の目が揺らいだ。光の一番大切な人で、かつ命の恩人である鹿助から言われた言葉に、光は密かに傷ついていた。


自分が信頼されていないようで、光の心には不安な雲が広がっていく。じわりじわりと心が湿っていくような気持ちになった光は、意を決して顔を上げた。


「先生、あたしに武術を教えて下さい」


「……いきなり何言ってんだ」


光が言った言葉に今度は鹿助が瞠目する。にわかには信じ難いというような表情で、光の顔をまじまじと見つめた。


両者が身動きをせず、しばらくの時間が経過する。その後、小さくため息を吐いた鹿助は、美しい銀煙管に火を点けると、紫煙を吐き出した。


――彼が煙管を吸うのは、苛立ちを紛らわすときだ。光の前で吸ったことはなく、御太郎が鹿助の特徴としてこっそり教えてくれたのである。


「武術なんざ女が身に付ける必要はねえ」