新撰組のヒミツ 弐




街へ買い出しに行った鹿助が苛立ちを隠そうともせずに帰宅した。庭にいた光を見た彼は、険悪な表情を押し殺そうとするが、失敗して歪んだままだった。


ついと視線を逸らし、珍しく足音を立てながら廊下を歩いていく鹿助。光は「先生? どうされたのですか?」と洗濯物をその場に置いて駆け寄った。


「何かあったのですか?」


「……」


「先生?」


無視をして行ってしまう鹿助を見てカチンときた光は、履き物を脱ぐと彼の背中を追いかける。光にとって鹿助は大切な人だ。彼の顔を見てしまえば、知らない振りをするのは難しかった。


「先生!」


「てめえは俺の事になると途端にくどいな」


「……ごめんなさい」
もしかすると、彼はしつこい光を迷惑に思ったのだろうか。光は肩を落とし、目を伏せて小さく謝罪の言葉を呟いた。


その悄然とした光の様子を見た鹿助は、庭の方をを向いて軽く舌打ちをすると、光に背中を向けて部屋へと歩き出す。


「……俺の部屋に茶を持って来い。俺とてめえの二つ分だ。何か聞きたいならそれからにしろ。いいな」


「は、はい!」


すぐさま踵を返し、慌てて厨に向かう光の背中に「廊下は走るな!」という鹿助の叱咤が届き、光は思わず背筋をピンと伸ばして「はい!」と返事をした。







「失礼します」


声を掛けた光が襖を開けると、立てた片膝に手を乗せ、こちらを向いて座る鹿助と目が合う。眉間に皺が寄せられているのを見た光は、落ち着かない気分に陥った。


「立ったまま襖を開ける奴があるか。最低限、まずは座って声を掛けて、絶対に相手の許可を得てから開けろ」


「あ……はい」