それからしばらくの月が流れる。


「――ほんま師匠は容赦無いねん。倒れてるっちゅうのに、急所しか狙って来うへん。この間かて殺られるて思たわ……」


「そんな、まさか先生が……。いつもは優しいのに、稽古では怖いんですね」


「優しいなんてお前だけやん。娘か妹みたいに思っとるんとちゃう? 俺にはおっそろしい顔しかせえへんで!」


早道は医者の子供らしい。後継ぎと思われているが、決められた道を歩くのがどうしても嫌で、侍になりたくて稽古を受けに来ているという。


とはいえ、町の道場に行けば、反対する親に見つかる可能性が高い。公的に道場を開いていない鹿助に頼み込み、特別に指導をしてもらっているらしい。


光と早道は年齢が近いからか、そのようなことまで話すようになり、むしろ今では、早道から話し掛けることが多い。


「……あの、早道さん。あたし…………」


「言いにくいこと?」


「いえ、早道さんには知ってほしいんです。……あたしは先の世の人間です」


散々迷ったが、光は自分が未来の人間であることをついに話した。長い間呆気にとられていた早道だったが、証拠にと未来の物を見せると納得したようであった。


「不思議なこともあるもんやな……」


存外に普通の反応が返ってきたことに驚き、不安げに早道へ向けていた目を丸くする。それに気付いた彼は表情を和らげた。


「俺は何とも思わへんで! 生まれた場所が違うのは皆一緒や。先の世でも今の世でもな。
ま、ちょっとばかしびっくりしたけど、お前だけが特別やない」


「早道さん……ありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね!」


――受け入れてもらえた。
柔らかく微笑むと、早道は顔をさっと赤くする。嬉しさに破顔する光は気付いていなかったが、彼はすぐに表情を取り繕った。


「……敬語やめえや。後、御太郎でええ」


「御太郎? うん!」


名前で呼ばせてくれるようになった早道。更に距離が縮まったように感じた光は、胸に暖かいものがこみ上げてきて、早道を見つめて「ありがとう」と伝えた。