彼は悪い人ではないと先生が言うように、ただ突然現れた見知らぬ人物に警戒しているだけのようにも、本当に気難しいようにも思える。
(それとも、同情されてるのかな……)
複雑な気持ちに陥った光は、首を横に振って、後ろめたそうな顔をする早道に向かって少し硬めの声を発した。
「気にしないで下さい。あたしは先生に拾ってもらえて本当に嬉しいですから」
「……」
押し黙った早道は頬を掻こうと手を上げるが、寸前で手を止めて「あー……」と戸惑ったような声を上げる。口を開閉しているところを見ると、相応しい言葉を探しているようだった。
会話が暗くなっている気づいた光は、慌てて話題を変える。
「……すみません。
あの、今日は稽古ですよね? えっと……ああ! 終わったら、またお茶を持って行きます。大変だと思いますが、頑張って下さいね!」
「……ん、おおきに」
矢継ぎ早に言葉を紡ぐ光に対し、早道は一瞬だけ柔らかく微笑んだように見えた。だが直ぐに、錯覚だったのかと思うほど隙のない表情をしている早道に戸惑う。
道場の方へ歩いていく彼の背中を見た光は、小さなため息を吐いて視線を逸らす。手に収まっていた箒の柄に目を落とすと、「掃除しないと」と小さな独り言を呟いて、ザッ、ザッと通りを掃き始めた。
――知りたい。
先生のこと、早道のこと、この世界のこと。
もっともっと、たくさんのことを。
*
「早道さん、手拭いです」
「ああ、おおきに」
その後、早道の冷たい態度は軟化してきている。初めこそぎこちなかったが〝友になりたい〟という気持ちで諦めずに話し掛ければ、日常的に会話をするようになった。
「どういたしまして」
目尻を垂れて嬉しそうに笑う光。早道も笑いながら流れ落ちる汗を拭う。稽古が終わった道場の真ん中で座る二人を、離れた場所から眺める鹿助は相も変わらず無表情であった。
(それとも、同情されてるのかな……)
複雑な気持ちに陥った光は、首を横に振って、後ろめたそうな顔をする早道に向かって少し硬めの声を発した。
「気にしないで下さい。あたしは先生に拾ってもらえて本当に嬉しいですから」
「……」
押し黙った早道は頬を掻こうと手を上げるが、寸前で手を止めて「あー……」と戸惑ったような声を上げる。口を開閉しているところを見ると、相応しい言葉を探しているようだった。
会話が暗くなっている気づいた光は、慌てて話題を変える。
「……すみません。
あの、今日は稽古ですよね? えっと……ああ! 終わったら、またお茶を持って行きます。大変だと思いますが、頑張って下さいね!」
「……ん、おおきに」
矢継ぎ早に言葉を紡ぐ光に対し、早道は一瞬だけ柔らかく微笑んだように見えた。だが直ぐに、錯覚だったのかと思うほど隙のない表情をしている早道に戸惑う。
道場の方へ歩いていく彼の背中を見た光は、小さなため息を吐いて視線を逸らす。手に収まっていた箒の柄に目を落とすと、「掃除しないと」と小さな独り言を呟いて、ザッ、ザッと通りを掃き始めた。
――知りたい。
先生のこと、早道のこと、この世界のこと。
もっともっと、たくさんのことを。
*
「早道さん、手拭いです」
「ああ、おおきに」
その後、早道の冷たい態度は軟化してきている。初めこそぎこちなかったが〝友になりたい〟という気持ちで諦めずに話し掛ければ、日常的に会話をするようになった。
「どういたしまして」
目尻を垂れて嬉しそうに笑う光。早道も笑いながら流れ落ちる汗を拭う。稽古が終わった道場の真ん中で座る二人を、離れた場所から眺める鹿助は相も変わらず無表情であった。



