「ふん……情けないにもほどがあるな。
光、あいつにも茶をやれ」
「はい」
早道のところまで行って茶を手渡すと、彼は上体を起こし、無言で茶を流し込んだ。ため息を吐いた早道は、背中を向けて道場から立ち去っていく。
光は声を掛けることが出来ず、困惑して早道の背中を見やった。一度も目を合わせられないのは、嫌われているからなのだろうか。
しょんぼりと肩を落とした光を慰めるように、鹿助は普段通り仏頂面のまま「まあ、初めてにしては上出来だ」と呟き、残った茶をぐっと飲み干した。
*
「お、おはようございます、早道さん」
「おはようさん」
掃除をしていた光は門をくぐってきた早道に頭を下げると、彼はにこりと笑みを浮かべて挨拶を返してきた。だが、光に向けられる視線に好意の欠片も見当たらない。
なんや、お前か。
そんな副声音が聞こえてくる気がした。
『あいつはただ警戒しているだけだ。お前が嫌いなわけじゃない。だから話しかけてやれ』と言っていた鹿助を信じ、こうして朝から実践してみたのだが――。
(何で嫌われてるわけ!?)
「朝からえらいなあ。雑用、大変やろ?」
「そんなことありません」
雑用という言葉に棘を感じたが、即座に首を振る光に向けて早道は苦々しい顔をする。上から冷たく見下ろしてくる彼にたじろぎ、後退った。
「……お前、なんでここに居るん?
家族は?」
家族。その言葉を聞いた瞬間、懐かしい面影が脳裏を鮮烈に過ぎる。今になって分かる愛おしい存在だが、ここに居るはずがないのだ。
光は俯いて首を横に振った。
「どこにいるのか分からないんです」
――この言い方が一番相応しい。
そう思って言ったのだが、早道は「しまった」と言わんばかりに罰の悪そうな顔をして「……せやったんか。堪忍な」と小さく呟いた。
光、あいつにも茶をやれ」
「はい」
早道のところまで行って茶を手渡すと、彼は上体を起こし、無言で茶を流し込んだ。ため息を吐いた早道は、背中を向けて道場から立ち去っていく。
光は声を掛けることが出来ず、困惑して早道の背中を見やった。一度も目を合わせられないのは、嫌われているからなのだろうか。
しょんぼりと肩を落とした光を慰めるように、鹿助は普段通り仏頂面のまま「まあ、初めてにしては上出来だ」と呟き、残った茶をぐっと飲み干した。
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「お、おはようございます、早道さん」
「おはようさん」
掃除をしていた光は門をくぐってきた早道に頭を下げると、彼はにこりと笑みを浮かべて挨拶を返してきた。だが、光に向けられる視線に好意の欠片も見当たらない。
なんや、お前か。
そんな副声音が聞こえてくる気がした。
『あいつはただ警戒しているだけだ。お前が嫌いなわけじゃない。だから話しかけてやれ』と言っていた鹿助を信じ、こうして朝から実践してみたのだが――。
(何で嫌われてるわけ!?)
「朝からえらいなあ。雑用、大変やろ?」
「そんなことありません」
雑用という言葉に棘を感じたが、即座に首を振る光に向けて早道は苦々しい顔をする。上から冷たく見下ろしてくる彼にたじろぎ、後退った。
「……お前、なんでここに居るん?
家族は?」
家族。その言葉を聞いた瞬間、懐かしい面影が脳裏を鮮烈に過ぎる。今になって分かる愛おしい存在だが、ここに居るはずがないのだ。
光は俯いて首を横に振った。
「どこにいるのか分からないんです」
――この言い方が一番相応しい。
そう思って言ったのだが、早道は「しまった」と言わんばかりに罰の悪そうな顔をして「……せやったんか。堪忍な」と小さく呟いた。



