何も考えられなくて。

ふと、足を止めたのは、お兄さんのアパートの前。

お兄さんは、霧生くんと関係ないし。

これ以上、ここにいる理由もないから。

今日は、霧生くんの実家に行ってみよう。

もう、それ以外に霧生くんを探す手がかりはないと思う。

「あ…鍵、返してくればよかった。」

ポツリとつぶやきながら、アパートを見上げた。

今からコンビニに戻っても、お兄さんのバイトが終わって入れ違いになっても困るし。

仕方なく、部屋に戻って。

買ってきたサンドイッチを開けると、ハアッとため息まじりにパクッとひと口、口に入れた。

「霧生くん、実家に帰ってないかな?」

持って帰って来たアルバムを見ながら、ハアッともう一回、ため息をついた。

チラッと壁にかけられた真新しい時計を見ると、9時を少し回った頃。

ガッチャ!!

玄関が開く音と共に

「お待たせ。」

お兄さんが帰ってきた。

その声と同時に、借りた鍵を手に取って玄関に立った。

「ありがとうございました。」

軽く頭を下げ、お兄さんに鍵を渡すと。

足早に家を出ようと一歩、玄関から降りようとした。

「待ってよ。少し話していいかな?」

顔を上げると、お兄さんが悲しそうな顔でジッと見ている。

「話って?」

不思議そうに小さく首をかしげた。