指先の震えの正体は、いつもと違う空気を感じたゆえの恐怖心だった。


人々が寝静まる夜で良かった。

もしもこれが昼間であれば。

忙しさに紛れ気づくことなく過ぎるか。

それとも良き前兆と捉え歓喜するか。

或いは自分と同じく恐れおののくか―――

何れにしても、普段と違う空気は、混乱を生む種に成りかねない。



次第に厚くなっていく雲が、完全に月を隠していく。

闇が深く濃くなり、家から洩れる灯りも一切なく一寸先も見えづらい中、必死に歩みを進めていくと、前方に、チカチカと光る小さな明りが見えてきた。



「・・・良かった」



方向は間違っていなかったと、フードの中の表情から強張りが消える。

チカッと光ったり消えたりするそれを目指していくその若者の前に、小さな建物が顕になった。

方々にある隙間から僅かに漏れ出た光で暗闇の中にぼんやりと浮かぶそれは、道具小屋のような簡素なものだった。


錆びれた赤い屋根。

板を継ぎ合わせただけの粗い造りの引き戸。

その隙間から洩れる灯りが点いたり消えたりして見えるのは、蝋燭の前を行き来する者がいるのだろうと思えた。

もう既に、若者以外は集まっているよう。


ノックするのも半端に滑りこむようにして入れば、外観には似つかわしくない内装が目に入る。

床には絨毯が敷かれ、質素ではあるが人が住むに十分な家具が置かれ、普段放置されているとは思えないほどの綺麗さだ。



「あ・・遅くなりました」



若者が丁寧に挨拶すると、中にいた三人が各々の反応を見せる。

窓際の長椅子に座り腕を組む者は無言のまま頷き、テーブルの傍に立つ者はゆっくり丁寧に頭を下げ、待ちかまえていたように戸の前に立っていた者は「心配したぞ」と言った。



「はい。申し訳御座いません。抜け出るのに大変手間取りました」

「まあ、仕方ありますまい。予定外のことが起こったのですから。それも我等にとっては“幸運”と言っても差し障りないことが―――これは、やはり、導かれているのですぞ」



しわがれた声で嬉しげに言って、テーブルの傍に立つ者がニタリと笑った。