「あら、祈くんだわ」
志麻子が縁側に向かって声を投げる。
「祈くーん、ありがとう。そこに置いていてくれるー?今、お話してたお客様が見えてるの」
「はーい」
祈は答えて、靴を脱いで縁側からあがってきた。
早瀬たちのいるところに顔を見せる。
「こんにちはー。明日見祈です」
ふわっとした童顔に笑顔がこぼれた。見ている方がつられて笑顔になってしまう。
早瀬たちも「こんにちは」と挨拶をした。
「明日見って…」
早織が志麻子に聞く。
「ああ、そうなの。祈くんは明日見さんのお孫さん。ね、祈くん?」
「はい」
早瀬がさっき聞いた奇妙な響きの言葉を口にする。
「ナーベーラーって?」
そこで祈と目が合った。
「ヘチマのこと。美味しいから良かったら食べてね!」
「え?へ、ヘチマ?食べるの?」
祈はきょとんとする。
「…食べないの?」
「だってヘチマって、タワシになってるあれでしょ?」
「うん。化粧水にもなってるあれです」
「タワシ食べるの?」
志麻子は吹き出してしまった。
「違うわよ、早瀬ちゃん。タワシのヘチマは食べられないわよ。祈くんが言っているのはカラカラになる前のヘチマのことよ」
「……?」
そう言われても早瀬にはピンと来ない。ヘチマに食べ物という認識がないから、見当もつかなかった。
隆史も興味津々で祈に聞いた。
「どうやって食べるの?美味しいの?」
祈は縁側に置いたヘチマを持ってきて説明しはじめた。
「これの皮を剥いて、食べやすい大きさに切って、豆腐とかシーチキンとかと炒めて食べるの」
「ふーん…」
「作ってみる?」
人なつこい祈の目が隆史を捉える。隆史は好奇心に駆られて「うん」と答えた。
志麻子が「あらあら」と楽しそうに言った。
「台所使うなら、好きに使って。夕飯を考えなきゃいけなかったし、これで一品考えなくても良くなったわ」


