志麻子の家は昔ながらの沖縄の家だった。
煉瓦色の瓦屋根も、屋根の上のシーサーも年季が入っている。
壊そうかと考えていた元の家主に、志麻子が「いい家だから譲って欲しい」と頼み込んで買い取ったそうである。
腕のいい職人に頼んだのか、ところどころ、わからないようにきれいに補修されており、志麻子がこの家を大事にしていることがわかった。
こんな家の中を歩けるなんて。
「すごい、この家…」
早瀬は首里城を見た時よりも、圧倒されていた。
歩くと床が軋む。木の柱がある。広く開け放された雨戸。家全体が、風通しの良い空間になっていた。
早瀬には非日常の空間だが、生活の匂いがする。こんな空間に実際に日常があるのだ。感動しているのはそのせいだろう。
「涼しいでしょう?この家にいるとクーラーなんか要らないのよ。でも早瀬ちゃんはちょっと落ち着かないかしらね。ホテルが良ければとっておくけど」
早瀬は「いえ」と答えた。
「ホテルなんかよりこの家の方がいいです」
「あら。早瀬ちゃん、気が合うわね。私もこの家好きなの」
早瀬の足の手当てをしながら、志麻子が笑った。
「捻挫だから、しばらく安静にしてた方がいいわね。とりあえず様子を見ましょう」
家の中を見て回っていた早織と隆史が戻ってくる。
「志麻ちゃん、この家素敵。今までに行った旅行でもこんな家、泊まったことないわ。本当にいいの?」
「いいわよ。私ひとりじゃ広すぎるくらいよ。ゆっくりして行って。隆史くんは平気かしら?」
「はい。お世話になります」
隆史が笑顔を見せる。
その時、庭先でのんびりした声がした。
「志麻子さーん。ナーベーラー食べるー?」
開放された雨戸の縁側に中学生くらいの男子が身を乗り出してきた。


