夏きらら




「──何でもお父さんの言う通りには出来ないよ」

 隆史は納得の行かない表情を覗かせる。早瀬はほっとする。

 どうしてだか、隆史がそう言うことで、自分の気持ちも肯定された気分になったのだ。

「ま、頑張って」

 短く応援の言葉を向けると、隆史もほっとした表情になった。

 志麻子の車が到着する。

 早瀬が足を痛めてしまったので今日の観光日程はこれで終了で、志麻子の家まで直行である。

「家で手当てしましょう。乗って乗って」

 志麻子は薬剤師である。

 早織も志麻子と同じ学科の出身だが、大学在学期間中に隆一郎との婚約が決まってしまい、卒業後にすぐ結婚してしまった。

 それで志麻子とは別々の道を歩くことになったのだが、元々の興味のある分野が同じ者同士であるからか、今でも仲が良い。

「志麻ちゃん、今日はお店は?薬局なのよね?」

「早織ちゃんたちが旅行に来てる間だけ、明日見さんに任せているのよ。明日見さんも『久しぶりに仕事でもしようかね』って張り切ってたし。ずっと明日見さんが見ていたお店だから、明日見さんには自分の家のようなものなの。明日見さんのところでもなければ、こんな簡単には連休なんて取れないわ」

「そうなの。ありがたいわ」

 早瀬には薬の知識がある人間が身近にいるのは幸運なことではあった。

 旅先で病院を受診するなんて出来るだけ避けたい。

 だが、気持ちとは裏腹に足はかなり痛んだ。

 大丈夫なんだろうか。



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