「──痛っ…」
脱いだ華奢な靴を手に持って、早瀬は石垣の上に座り込んだ。
南部をめぐって首里城までを見てきたのはいいが、階段を降りているところで不意に猫が飛び出して来たので足首を変なふうに捻ってしまったのだ。
「大丈夫か?」
隆史は早瀬のそばに立ってバッグを持ってくれている。
早瀬はちょっと笑って「隆史も座れば?」と促した。
「あー…もう…旅行1日目なのに」
「めずらしいね。早瀬がこんなことって」
「こんな可愛いもの履いて来たからかしらね。私のガラじゃないのに」
「そう?早瀬、似合うよ。美人だから」
隆史は他意はない様子で早瀬のことを褒める。早瀬は難しい顔になった。
「隆史、あんた、何処でそんな言葉覚えてくんの?」
「そんな言葉って?」
「…自覚ないならいいけど」
蝉が鳴いている。
沖縄の太陽は目が醒めるように明るい。陽射しが強い。
甘く見て動き回っていると、確かにバテてしまいそうだ。
志麻子と早織のふたりは車で迎えに来るから待っていなさいと、隆史に早瀬を任せて駐車場に行ってしまった。
隆史はカメラを手に写真になりそうな場所を探し始める。
そういえば沖縄に着いてから、誰が頼むわけでもなく、気がつくと隆史がカメラを構えていてくれる。
撮ってもらってばかりもなんなので、早瀬も撮ってあげたりもしたが。
「隆史、カメラ好きだっけ?」
早瀬が聞くと、隆史は若干言葉に詰まる。
「──ああ…まあ、好きというか」
「?」
「彼女に見せたいと思って…」
優等生の隆史のこんな表情を見るのは初めてだ。
「お父さんには言うなよ」
隆史は困ったようにカメラに視線を戻す。早瀬は頷いた。
「何で親父に。言わないよ。何、どんな子?いつから?」
「ピアノ弾く子。つい最近」
「へぇ…」
早瀬は何だか楽しい気分で隆史のことを見る。
「あんたは親父の言うことには逆らわないと思ってたけど」


