隆史と早瀬も一緒なのだから、お父さんも一緒に旅行はどうですか、と早織は言ったのだが、隆一郎は首を縦には振らなかった。

 自分が一緒では早瀬が窮屈だろうとでも思ったのだろうか。

 行かない理由は口にしてはいなかったが。

「沖縄のお酒は美味しいのかしらね?お父さんにはお酒を買いましょうね」

 もしかしたら早織は隆一郎と来たかっただろうか。

 早瀬はそんなことを考えた。

「──お母さん」

「なあに?」

「お父さんと来たかった?」

「え」

 早織は目を見開いて、笑い出した。

「そりゃあいた方が楽しいに決まってますよ。でも何だかんだ忙しいんですよ。まあ、そのうちあの人も折を見て何処かに連れ出しますよ。いつも家に縛られているんじゃ可哀想ですからね」

「……」

「お父さんも素直じゃないからこんなこと言わないんでしょうけど、早瀬さんが可愛いだけなんですよ。早瀬さんは勝手に綺麗に成長して行くのに──心配なんじゃないかしらね」

「…そうは思えないけど」

「そう思うでしょう?そうなんですよ」

 ふふふ、と笑っている。

 飛行機がとまる。

 手荷物を持ち出口に向かう。空港には早織の旧友の楡崎さんが迎えに来ているはずだ。

 通路を歩くと、それだけでとても明るいことに気づく。太陽だろうか。

 南に来たのだ、とそれで実感した。



     *