夏きらら




 時期が時期なので、店先に花火が数を揃えていた。

 セットで売られている花火の他に、小さな線香花火やヘビ玉やロケット花火。

「これ何?」

 早瀬がヘビ玉を手に取り、不思議そうに祈に訊いた。

「ヘビ玉。遊んだことない?」

「うん」

「試しに買ってみようか。僕もあまり遊んだことない」

「そうね」

 百聞は一見にしかずだ。

 自分の目で見たり触れたりするのがいちばんいい。



「──何処まで行ったのかと思ったわ」

 花火を買い、家に帰って来た早瀬と祈を見て、母親の早織は若干心配そうな顔を見せた。

 早瀬と祈は顔を見合わせてふふふと笑ってしまった。

 隆史は何か言いたげな顔をしている。

 早瀬が「どうしたの」と聞くと、隆史は腑に落ちないというように呟いた。

「早瀬なんかついこの間まで恋愛に興味ないって感じだったのに…」

 早瀬の方は「そうだね」と少し考え込むように祈の方を見て、屈託なく笑った。

「祈だったからね。仕方ない」



 線香花火がちらちらする。

 その時は瞬く間に過ぎてしまったが、それを囲んでいた早瀬たちには、残像のように瞳の奥に焼き付いた。

 花火のかわりに星が瞬き始めた。

 楽しそうな隆史と早瀬と祈に、志麻子は水を差すようなことはと思い、声をかけずにいたが、やがて祈がはたと気づいて言った。

「あ…。僕、そろそろ帰らなきゃ」

 名残惜しそうに。

 志麻子がにっこりした。

「泊まって行ったら?祈くんも。隆史くんも早瀬ちゃんもいい思い出が出来るんじゃない?」

 その申し出に、祈は早瀬と隆史の方を見て、嬉しそうに頷いた。

「そうする」

(祈が?)

 早瀬は急にドキドキし始める。隆史が真面目に言った。

「大丈夫なのか?」

「何がよ」

「お前。祈に何かしそう」

「するわけないわ。バカ言わないで」