音が、声が、身体を包むように、全身が聴覚になったように聴こえてくるということもあるんだろうか。
それとも、そう聴こえさせるのは、目の前にいる人のせいだろうか。
そのうちに、祈が空の色を見て「花火、買いに行こう」と言った。
「早瀬ちゃんと花火見たいし」
自分と祈とを支えている足元はしっかりとしていたが、感情だけが自分のものではなくなってしまったような心地だった。
早瀬にとっては非日常だが、祈には日常の場所──。
祈が綺麗な少女を連れているのをからかうように、遠巻きに見ていた少年たちが声をかけてきた。
「えー祈よー、ありえん」
祈が笑って言い返す。
「何がありえん。うらやましいわけ?」
「うらやましいってマジかー?」
軽いイジワルだ。
祈は早瀬の手をしっかり握る。
「悔しかったら仲良くなってみればー?」
早瀬は照れて何も言えない。
でも嬉しかった。
「隆史くん、どうしようか?」
祈が訊くと、早瀬は問題ないというようにかぶりを振った。
「隆史は隆史で彼女がいるし、今頃その子のことでも考えてるわよ」
「えー?隆史くん彼女いるんだ?」
「だと思うけど。それで写真なんか熱心に撮ってんの。その子に見せてあげたいんでしょ」
「そりゃそうだよ。好きな子には楽しいものとか見せてあげたいよ」
祈が何気なく言った言葉に、早瀬は聞き返した。
「祈も?」
「え?」
…沈黙。つかの間の。
それは気まずい沈黙ではなかった。
祈は肯定した。
「そうだよ。僕なんか、それだけだよ。だから早瀬ちゃんが僕の絵を見て褒めてくれたの、嬉しかったし」


