早瀬はガジュマルの木の幹や枝振りをしげしげと見る。真横に太く伸びている枝もある。頑丈そうだ。
手の届く枝に触れてみると枝は柔らかくしなった。
ポキリと折れてしまうような傾向の枝ではない。
「この木、ブランコをつるしたら楽しいんじゃない?」
早瀬が言うと、祈はにっこりした。
「早瀬ちゃん、勘がいい。あるよ。実際にブランコつるされてるガジュマル」
「ほんと?」
「そこまで行こうか…って言いたいところだけど、足、大丈夫?」
早瀬は傷めた方の足を地面につけて、確認してみる。
「大丈夫…じゃないかしら。本当は早くあちこち歩きたいのよね」
「ふふ。早瀬ちゃん、もしかして体育好き?」
「え?そうね。わりと」
「運動神経良さそうな感じ、する。背も高いし」
早瀬は身長が165センチある。祈と並ぶと祈の方が低い。祈は気にしていないような感じだが、早瀬は気になって訊いてみた。
「女の方が身長が高いと可愛くなくない?」
祈は早瀬の目を見る。不安そうな表情に、祈は優しく言った。
「身長は関係なくない?僕から見たら早瀬ちゃんは可愛いよ」
「身長気にする男の人って多いけど」
「そーだねー。ホントは僕ももうちょっと欲しいんだけどね」
「どれくらい?」
「んー…」
祈は少し考えて「好きな人の顔がいちばんよく見えるくらい」と答えた。
早瀬は笑った。
「自分からよく見えるかなの?他人から見た『見目よい高さ』は気にならないんだ?」
「え。他人から僕や好きな人がどう見えるかなんて僕の気持ちに関係ないし。好きな人の表情がわからないと不安にならない?何考えてるんだろうって」
「そうね」
日が真上にある頃は暑かったが、夕暮れの木陰はだいぶ和らいだ風が吹いていた。
好きな人が何を考えているのか──。
自然に祈を見つめてしまっていた。祈も見つめ返してきた。
知らないあなたを、知らない君を、知りたくなるのは何故だろう。
知らないことへの不安が募るのは、その人が大きく占めているからだろうか。
自分の心を。


