夏きらら




 隆史は早瀬の気持ちも祈の気持ちも、見たままなのだろうと受け止めた。

「何か、ごめん。祈。…早瀬が」

「隆史くんが謝ることじゃないでしょ」

「そうなんだけど」

 隆史は祈の傍らに座る。

 祈は早瀬の残したぜんざいの器を、早瀬の気持ちのように見つめたままでいたが、やがてそれを手にとるとスプーンでぱくりと食べた。

「あ」

 隆史が口を開け、祈は無邪気にふふふと笑った。

「美味しい。ごちそうさま」

「…祈って」

「難しく考えてもわかんないもん。何となく食べて欲しかったかなーと思って」

「ぜんざいが?」

「早瀬ちゃんが」

「…ふーん」

 祈なりに早瀬に思うところはあるようだ。

 祈はその器を片し、早瀬の行ってしまった奥の部屋の方へ声を投げる。

「早瀬ちゃーん」

 …反応がない。

 早織と志麻子が少し心配げに尋ねる。

「なあに?喧嘩でもしたの?」

 祈は早織と志麻子を振り返り、にっこりした。

「逆です」

「逆?」

「早瀬ちゃーん、僕のこと好きなら好きって言ってくれないと、僕鈍感だから、わかんないよー」

「ええ?…って、ちょっと、祈くん?」

 早織と志麻子も驚いたが、早瀬の方もぎょっとして部屋から顔を出した。

「ちょっと…っ。バカ!祈!?」

「あ、早瀬ちゃんだ」

 祈はほんわかとした笑顔のまま早瀬のそばに行くと、言った。

「夜、花火しよう。ね、いいよね?」

「…祈、あんたね」

「嫌いっていう意味だったの?」

「……」

「違うでしょ?」

 早瀬が困ったような笑顔を作った。祈がその早瀬の頬に軽くキスをする。

「これであいこ」

「あ、あいこって…」

 早瀬が頬を赤くする。思ってもみなかった行動に出てきた祈に翻弄されてしまっていた。心臓がうるさい。

「祈くん、何なの?」

 早織が廊下に出てきて、祈はなんでもないというように言った。

「仲直りしてました」

「仲直り?」

 祈の利かせてくれた機転に早瀬は頷いた。

「…うん。もう何でもない」

 早織は一瞬早瀬の目を見たが何も言わなかった。

 もしかしたら早織にはわかったかもしれない。

 そう直感したのは何故だろう。



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