奥の部屋に隠れるようにして来た早瀬は、自分の旅行カバンの前に座り込んだ。
自分の行動に驚いてはいたが、後悔はしていなかった。
──祈は困ったかもしれないけれど。
(でも、祈、言葉で伝えても、伝わらなさそうだし)
そういう気持ちに疎いタイプだということは傍目にもわかるから、そういう伝え方になってしまったというのもあった。
部屋に置かれている鏡台の自分の姿を覗き込んで、早瀬は少し冷静さを取り戻す。
私は祈が好きなのだろうか。何か別の熱のようなものに浮かされてはいないか。
自分の心にある、たった今まで過ごしていた祈との時間を検分する。
でもどれも夏の陽射しの中に鮮やかさを保っていて、心を揺らしていた。
(こういうことって、すぐに冷静に考えることなんて出来ないんだわ)
そもそも冷静に考えることが出来たら、それはそれで、もう純粋な恋ではないのかもしれない。
(祈、何か反応してくれるといいな)
──私の気持ちをどう思ってくれたのか。
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