夏きらら




「顔、ついてる」

「え」

 どこ、と手で拭おうとする祈に、早瀬はふっと顔を近づけた。

 ぜんざいなんて何処にもついてなかったけど。

 早瀬の唇が祈の口元のごく近くを掠めた。触れた?

 一部始終を少し離れたところで見ていた隆史は唖然とした。

「…早瀬?」

 早織と志麻子は仕切りひとつ向こうのキッチンの方でコーヒーを飲んでいる。

 …気づいてはないらしいが。

「?早瀬ちゃんたち、どうしたの?」

 声がして、早瀬は顔をあげた。

「何でもありません」

「そう?」

 祈の顔を見て、早瀬は仕方のない笑みを作った。

「…ごめんね」

「……」

 流石の祈も呆然としている。早瀬は立ち上がると、奥の部屋の方に行ってしまった。

「…祈」

 隆史はどうしていいかわからず、早瀬が行ってしまった部屋の方と祈を交互に見比べる。

「…うん」

 我ここにあらず、といったていで、祈はスプーンを置いてしまった。早瀬の残していったぜんざいの器を見つめた。

「──びっくりした」



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