隆史はその空気を感じとったのだろうか、早瀬を見て温かい目になった。
「──何?隆史」
「いや、そういう意味でお前を可愛いと思ったのは初めてだな」
「どういう意味よ」
志麻子の声が呼んだ。
「ぜんざいがあるのよ。食べましょう」
外を少し歩いて来て要領を得たのか、早瀬が柱に掴まりながら立ち上がる。
「あら、早瀬ちゃん。大丈夫?」
隆史が笑った。
「甘い物だから」
「治りが早いって言ってよ」
元々早瀬は運動神経が良い方でもある。祈を振り返り笑顔になった。
「今日はありがとう、祈。一緒に食べよう」
「うん」
祈は手を貸してくれた。
祈の手は魔法の手だ。
差しのべてくれたその手をとるだけで、何処にでも行けそうな、何でも出来そうな気がしてくる。
自由で、素直で、可能性にあふれた手。
でも──。
(祈といられるのは、この数日間だけなんだわ)
現実が否応なく早瀬の心にのしかかって来た。
祈はそんな心境にはならないのか、早瀬のそばで美味しそうにぜんざいを食べはじめた。
「……。祈」
「んー?」
食べている時の祈は幸せそうだ。早瀬は口に出しかけた言葉をしまう。
微笑ましいような少し悲しいような気分。
「…何?早瀬ちゃん」
「え?」
「今、早瀬ちゃんが何を言うのか待ってたんだけど」
「……」
祈がじっと見つめてくる。
早瀬はちょっと諦めるような表情になる。
「ううん。…何でもない」
「何でもないって顔してないよ」
「そうね。でも何でもない」
「…どうして?」
(どうして、って──)
祈は、連れては帰れないから。
本当のことを目の当たりにして、動けなくなる。
祈はぽわんとした表情でいる。早瀬は、祈のぜんざいを食べているスプーンに目を落とし、いいことを思いついた。
「祈、ぜんざい」
「ぜんざい?」


