「他の絵も見ていい?」
こんないい絵を見ると声のトーンも上がってしまう。
祈も早瀬の反応が嬉しかったのか快く頷いた。
「うん、いいよ」
祈の描く絵は、本人を見ている時同様に飽きなかった。
夕空の繊細な彩りに映える雲は、金色の混じる淡い桜色、くすんだ灰青で描かれていた。
木漏れ日を振り仰ぎ、葉の隙間から煌めく太陽を捉えた構図。
階段を降りようかと迷っている子犬。
積み上げられた蔵書の中で、書きものをしている祖父。
庭先に降りてきて芝生をつついている雀。
休み時間の教室。
早瀬が日常的に何の感慨を持つこともなく通り過ぎてしまうような『生活の場面』が、そこには描かれていた。
もしかしたら祈には『日常』が私とは違うように見えているのかもしれない。
「祈の絵、いいね」
自然にそんな言葉があふれてしまう。
「えへへ。そう?」
「うん。好き」
言ってしまってからハッとしたが、祈は気づかないかも、と思って気にしていないふりをした。
が──。
「──ありがとう」
はにかんだ表情の祈が早瀬を見ていた。
早瀬は戸惑う。
祈はぎこちなく俯き「早瀬ちゃんに褒められるとドキドキする」と言った。
何とも言えない気持ちでいっぱいになる。


