「──…せ」
誰か呼んでる。
「早瀬」
「ん…」
目を開けると隆史が顔を覗き込んでいた。いつのまにか縁側で眠り込んでしまったらしい。
「あ…」
起き上がると、祈の明るい声がした。
「早瀬ちゃん、おはよう」
祈はスケッチブックを抱え、絵を描いていた。
「私そのまま眠っちゃったんだ」
「砂浜歩いたからね。炎天下って結構体力消耗するし」
「隆史はいつ帰ってきたの?」
「たった今だよ。早瀬が縁側で眠ってるから、何かと思ったら。海に行ったんだって?」
「うん」
祈と早瀬の様子を見て、「早瀬ちゃんも楽しかったみたいね」と志麻子と早織が居間の方から声を投げた。
隆史は祈の描いている絵を見て目を瞠る。
「へぇ…。ちょっと感心するくらい上手いな」
「何描いてるの?」
「早瀬ちゃん」
「え…っ。ち、ちょっと待って」
早瀬は慌てる。
祈は笑って「はい」とスケッチブックを手渡した。
「──」
スケッチブックに描かれた自分を見て、早瀬は息をのむ。
カレンダーか化粧品のポスターかのような雰囲気で、目を閉じている顔が描かれていた。
自分で言うのもなんだが。
「──綺麗」
思わずこぼれた言葉は祈の絵に対するそれであることを、隆史も理解しているようだった。
早瀬はしばらくその絵に見入ってしまった。
美大を出たいと言うだけはある。生半可に『絵が好き』なレベルではない。


