何気なく言った言葉だったのかもしれない。
『早瀬ちゃんとはこの瞬間しか一緒にいられないかもしれないでしょ?』
朝、訪ねて来てくれた祈が、そう思って一緒にいてくれたということが、早瀬の胸を波立たせた。
お弁当の袋に海で拾ってきた宝物を入れ、祈と早瀬は海を後にした。
ふたりを乗せた自転車に中学生が振り返って行く。土曜日なので、学校はお昼までなのだ。
「あれー、祈くんだー」
「わー、女の子連れてるー」
祈は「またねー」と、すーいと中学生を追い越していく。
何だか本当に彼女みたいだ。
「ごめんね。早瀬ちゃん綺麗だからみんな振り返ってくね」
「ううん。祈に彼女がいなくて良かったわ」
「あは。そうだー」
祈は能天気に答える。
早瀬の方は、砂浜で本音がこぼれてしまったあたりから、素の言葉に歯止めがかからなくなっている。
もともと本音を隠しているのが苦手な性分でもあるため、本音で話していられることで気分はすっきりしてきたが。
危うげなく帰途につくと、祈の祖父である明日見一郎が丁度出ようとしているところだった。
「ああ、海は楽しかったかね」
「うん。おじいちゃん、もうお仕事戻るの?」
「康子さんが午後に来ると行っていたからね。何時かわからんから」
「そう。いってらっしゃーい」
「はいよ」
一郎は返事をして、行ってしまった。
祈と早瀬は縁側に座ると「疲れたー」と横になった。
「沖縄の直射日光ってすごいのね。10分も太陽に下にいたら焼けてしまうわ」
「ああ、早瀬ちゃん色白いから」
そう言う祈は、ほどよく日に焼けていて、普段から外に出ているらしい様子が窺えた。


