夏きらら




 おにぎりを頬張っている祈に、早瀬は目を向けた。

「祈は──好きな子いる?」

「好き?…って女の子?」

「うん」

「好きな子…考えたことないな。僕、恋愛ってよくわかんない」

「そっか」

「早瀬ちゃんはいるの?好きな人」

「ううん」

「そうなの?」

「どうして?」

「好きな人いそう」

 祈にそう言われ、早瀬は少し複雑な気分になった。

 いそうに見えるのは、いいことなのか──それとも。

 祈から見た隆史ではないが、明日見祈も早瀬のクラスにはいないタイプの人間だった。

 こんな雰囲気の男子なんて今までに見たことがない。

 屈託がなくて遠慮がなくて、ふわっと明るくて。

 早瀬はいつになく優しい気持ちになっている自分に気づいた。

「クラスに祈がいたら、私の毎日は変わってたかしら」

「え?」

「そうね。祈にはそういうのはあまり似合わない」

「恋愛がってこと?」

「うん。…いい意味よ」

 早瀬は残さずに食べて、のびをした。

 履いてきた靴では足が痛いため志麻子のサンダルを履いてきている。

 ポニーテールですっきりとまとめ、綿素材のワンピースを着て海辺に座っている早瀬は、それだけで絵になっていた。

 それは祈の感性にふれてきた。

「…スケッチブック持って来れば良かった」

「スケッチブック?何するの?」

「早瀬ちゃんを描くの。早瀬ちゃん、絵になる」

 早瀬は照れたように俯いた。

「私なんか描いてどうするの」

「えー?夏の思い出。今年の夏は早瀬ちゃんという女の子を描きました」

「ふふ。夏休みの宿題みたい」

「僕にとっては人生の課題だよ」

「何が?絵が?」

「うん。だから勉強は一応頑張って美大を出たい」

「絵を描く人になるんだ」

「うん。なりたい」