「隆史くんも一緒だったら良かったのにねー」
昨日ナーベーラーチャンプルーを隆史と作った祈は、台所で隆史と打ち解けているようだった。
早瀬は自分が足手まといになったら困るので口にこそ出さなかったが、出来ればおしゃべりしながら一緒に作りたかった気持ちはあったため、それが少しうらやましかった。
「祈は隆史と話合う?」
「合う合わないというより、初対面の人ってどんな人だろうって思うよ。隆史くんて物腰柔らかいし本当に優等生って感じするね。育ちがいいってこういうこと言うのかなっていう。僕のクラスには隆史くんみたいな人いないから、ちょっと新鮮だった」
「隆史はうちの『跡取り』で躾られて来てるから。それで、本人もその期待に応えられるだけのものは皮肉にも持ち合わせて生まれてきてしまってるのよね。私は隆史見てて尊敬する気持ちも、ちょっとくらいグレてもいいんじゃない?っていう気持ちがあるの。私なんかわかりやすく父親に反発してるから、余計に隆史に期待がかかっちゃって、それもいけないのかなって負い目みたいなのもあるし」
「え…。早瀬ちゃんのお家って厳しいの?」
「そうね。たぶん。もっともよその家だってそういう窮屈さはあると思うんだけど、私の家なんかは『つき合うならこの男にしておきなさい』みたいな雰囲気があるようなところだから」
「え?じゃあ、それ以外の人を好きになったら?」
「知らないわ。でも私は本気で『この人なら』と思う人がいれば、あの家を出て行くつもりだけど」


