夏きらら




 砂浜に降りられる階段がある場所を選び、祈は自転車をとめた。

 早瀬の手を取ってくれる。

「お弁当持つよ。貸して」

「ありがとう」

 祈につかまりながら、ひょこひょこと階段を数段降り「ここでいいわ」と座り込んだ。

「暑ーい…。でも木陰は涼しいのね」

「うん。陽射しが強いから、木陰にいるのとひなたとじゃ、だいぶ暑さが違うでしょ?」

「見るもの全部色が鮮やかだわ。光が強いからかしら。ハイビスカスも海の色も」

 波の打ち寄せる音。白い砂浜。くっきりとした水平線。

「もったいないことしたわ。足さえ怪我してなければ裸足で波打ち際歩くのに」

「あはは。でも早瀬ちゃんが足怪我してなかったら、今頃紅型見に行ってて、ここには来てなかったよー」

「あ、そうか。じゃあ、怪我の功名ね」

 階段の脇には木が生い茂っていて直射日光を遮ってくれていた。

「お腹空いたー。ご飯食べよー」

 祈は早瀬の隣りに座り、ふたりはお弁当を食べ始めた。

 ゴーヤーチャンプルーをひとくち食べてみた早瀬が首を傾げた。

「…あれ?」

「どう?」

「思ったより苦くない」

「食べられそう?」

「これなら平気。へぇ…。ナーベーラーとじゃだいぶ味が違うのね」

「早瀬ちゃんはどっちが好き?」

「ゴーヤーの方かな」

「良かった。ゴーヤーって苦味があるから苦手っていう人もいるんだけど」

「おにぎりも美味しい。塩味強いけど。これ、ポークだっけ?こんな缶詰めに入ったお肉なんて売ってないよ。あたしの住んでるところでは」

「うん。コンビニでも沖縄でしか売っていないおにぎりって聞いたことあるけど」

「コンビニにもあるの?」

「あるよー。ポーク玉子おにぎり」

「探してみよう。明日は普通に歩けるようになってるといいんだけど」