「うん。シークヮーサー持ってきた」
祈はまるいザルの中に入った緑の実を見せてくれる。
柑橘類の実のようだが、ずいぶん小ぶりだ。
「ライムみたい。食べられるの?」
「うん。でも酸っぱいよ。レモンくらいかな」
「そのまま食べるの?」
「食べてもいいけど、うちではジュースにしてる。魚料理の時にレモンの代わりにかけてもいいし」
「ふーん…」
祈はシークヮーサーの実をひとつ取って皮を剥き始めた。
半分に割り、片方の房をぱくりと食べてしまう。
早瀬はびっくりする。
「え?酸っぱいんじゃないの?」
「うん。僕は平気。食べてみる?」
差し出されたもう片方の房を受け取って、ひとつ食べてみた。
「祈、酸っぱいよ、これ」
早瀬の反応に祈は笑った。
「あはは。やっぱりー」
「やっぱりって、あのねー」
早瀬は怒った。祈は飄々としている。
「じゃあ今度は甘いものにしようか」
志麻子の家は勝手知ったるというていで、台所にぱたぱたと駆けていって、銀色のボウルとまな板と包丁とを持って来ると、縁側でシークヮーサーを半分に切り始めた。
昨日ナーベーラーを調理するのを早瀬は見られなかったから、気になっていたのだろうか。
実際に何かを作っているところを目にするというのは楽しいものだ。
早瀬は何となく自分もやってみたい気分になってきた。
「何するの?これ」
「シークヮーサージュースを作ってます。早瀬ちゃんもする?」
「うん。これを搾るの?」
「そう。手が疲れたら代わるね」
「このくらい平気よ」
「頼もしいですねー」


