そういうわけで、早織たちは朝食を済ませて出掛けて行った。
広い家の中にひとりきり──。
早瀬は蓙の上に横になって、しばらくぼーっとしていた。
外は蝉時雨。
家は古びた石垣に囲まれ、植え込みにはハイビスカスが咲いている。
(綺麗だな──)
早瀬はハイビスカスの花を見て自然に顔がほころんでいた。
家にいる時とはまったく違う、心地よい解放感が早瀬を包んでいた。
「志麻子さーん」
昨日と同じように縁側から声がした。この声は。
早瀬は志麻子の代わりに言葉を返した。
「祈ー?志麻子さんならさっき出かけたわよ」
「えー?早ーい」
祈が家の中に入ってくる。
「おはよう。早瀬ちゃんだけ?」
「うん。足が痛いから今日は下手に動かない方がいいかと思って。母達は琉球紅型見に出かけたわ」
「そっか…。せっかく沖縄に来たのにね」
「そうでもないわ。こんな家でゆっくり出来る機会なんてそうそうないもの。伝統工芸品ばかり見て回るのが旅行でもないでしょう?」
「早瀬ちゃん、この家気に入ってるんだ?」
「うん。いいわ。この家。──あの家にいると息がつまりそう」
早瀬はそう言って、首をめぐらせ、祈を見る。
「ごめん。起きて話しようか」
「このままでもいいよ。キツいんでしょ?」
「キツいのは片足だけなんだけど。嫌ね。滅多に怪我なんかしないから、片足捻挫しただけでこんなに不自由な感じがするとは思わなかったわ。手、借りていい?」
「うん」
祈は早瀬の手を取り、起こすのを手伝ってくれる。
「痛…。床はダメだわ。縁側に座る」
正座を少し崩した座り方も痛いため、早瀬は何とか縁側まで来て座った。
「ふふ。早瀬ちゃんおばあちゃんみたい」
「何が?足が痛いって言ってるのが?」
「縁側で日向ぼっこしてるのが」
「それは祈もじゃない。祈、学校は?」
「今日はお休みー」
「そうなんだ。そういえば志麻子さんに用事?」


