巽はガラスのテーブルの上に置いたバーボンを一口飲んでから、平然とした顔で聞いてきた。そりゃそうだ。まさか、この一般オーエルの私が酒に酔って泊まる程度のホテルがスゥイートなはずはない。
「……何を撮ろうとしたのかな……」
「何が?」
「犯人。着替えとかかな。お金持ちの人がどんな風に着替えてるのとか見たかったのかな……」
 話を逸らしたつもりだったが巽は、
「もしくはキスやセックスの現場なんじゃないのか?」
 知ってる……どうしよう……巽は附和とスゥイートに泊ったことを知ってて聞いてるんだ……。
 突然心臓がバクバク鳴り出し、息が荒くなる。
「あの……、その……」
 ピリリリリリリリ!!
 突然の電子音に身動きができなかった。巽の視線が痛いくらいに突き刺さる。
「電話」
「え、あ、ああ……誰だろ」
 手が震えてバックの中をうまく探せない。そのうちに電話は切れてしまう。
「えっと……」
 どうにか探し当てて、携帯を開いた。
 何でこんな時に……紺野だ。
「かけなおさないのか?」
「えっ……えっと……どうしよ」
 こんな時間に一体何の用なのか……。
 迷っている間にもう一度鳴った。
「何だ? 出られないような相手か?」
 巽はいつも通りのポーカーフェイスを決め込んでいるが、もはやそれも腹の中は何色やら分からない。
「……はい……もしもし」
 大丈夫。どうせまた、今何してる的な、今度どこ行きたいとか、そういう……。
『もしもし、今大丈夫? ちょっと大事な話ししたいんだけど』