「ロンドンが好きなのか?」
「え?」
 食事が始まったと思ったら、何を言い出すのだ。
 今日は新しくオープンした、料亭に来ていた。和洋折衷が売りの、若い料理長が有名で、わりと価格も安い。といっても、1人最低でも2万円財布にないと、来られないが。
 ここは、香月が行ってみたい、と要望を出した店だった。2万円なら、払ってもいい、というか払える、と思い、7万円財布に入れてきたのである。そう、いつも巽が出してくれるので、財布は持って来ているだけのかざりだが、今日は違う。例え、割り勘といわれたって、払えるし、きちんと奢ると言ってみせようと思っているのだ。
 メニューを見ながら考える……。今日のディナーは2万5千円……これでいくしかない。意外にも巽も簡単にこれを注文し、あとは酒を足す。何か欲しい時は、その時々で追加するが、こうやって自分が払うと思って計算してみると、やっぱり巽はすごい人物なんだなあ……としか思えない。25万円の給料の2万5千円がたったの一食……。高すぎる……。自分と巽はやはり、つりあっていないのだろうか?
「イギリスが好きだと言ってなかったか?」
「え、ああ、うん、そう。ロンドン。合ってるよ」
「行くか? 来週辺り」
「来週!?」
 突然のなんとも言いがたい誘いに、香月は、目を丸くした。
「休みがとれそうだ」
「……何泊何日?」
「一週間くらい」
「え……嘘……」
「お前が仕事を休めないのなら、家でゆっくりしてもいい」
「え……嘘……どうしちゃったの?? 仕事、干されたの??」
 一瞬、ユーリが頭の中に浮かんだ。
「無理に休みを取ったんだ」