「ここ……眺めいいね……」
 都内でも有数の高層マンションからの眺めは、すばらしいに決まっている。
「100パーしかないけどいいですよね?」
「りんご?」
「オレンジです」
「いいよ、オレンジなら」
 香月は、その、広々とした空間を見つめた。どこもかしこも、子供仕様になっていて、見慣れないせいか、面白い。
「これ……どうやって遊ぶの?」
 壁に貼ってある一メートル四方のキルティングの布を見ながら、香月は、佐伯に聞いた。
「これはぁ、こうやって、自分紙芝居、みたいな」
 布の一番下がポケットになっていて、そこから小さな布製の人形を出して、布に貼り付け始めた。
「ふーん……これ、なんで引っ付くの?」
「そういう布なんですよ」
「世の中便利になったねえ」
「(笑)、この布よりも便利なこと、昔からいっぱいありますよ」
 佐伯は何も感じさせないつもりなのか、いつも通り笑う。
 ピンク色の小さな軽そうなテーブルに並べられたのは、オレンジジュースが2つと、紅茶が1つ。
 3人は、そこで腰をおろすが、うち1人の佐伯の娘は、菓子を手に、ただテレビを見つめていた。
「うるさいからテレビつけときますね」
「……この前さ、四対さんにリンゴの皮の紅茶作ったら、豚かよって言われた」
「(笑)、豚!?」
 佐伯はさも可笑しそうに、腹を抱えている。
「アップルパイ作ったの。……それがさあ、聞いてくれるー!?!?」
「どうぞ??」
 紅茶のカップを両手で持ったまま目を大きくさせる。
「最低最悪、何で私が悪いのー!! って話」
「早く早く!!」