海宝堂〜海の皇女〜

「―――ぐっ…!」

背中から伝わる衝撃にシーファは一瞬息が出来なくなる。

「シーファっ!
リュート!今だっ、やれぇっ!」

ガルの指示で、リュートが自分の鞄に手を伸ばす。
手に取ったのは以前のとは違う、鎖で出来た鞭だった。持ち手に黄色い宝石が付いている。
素早く振って、大ガニの足に鞭を巻き付ける。

「焼きガニにしてやるっ!」

リュートが鞭に力を込めようとした時だった。

「…っ…だめぇっ!リュート、待ってっ!」

シーファがやっと立ち上がり叫んだ。

「は?なんでだよ!早くしないとまた暴れて…」

そうこう言ってる間に大ガニはゆっくりとハサミを振り上げた。
シーファは息を整えると、大ガニを見上げた。

「ごめんなさい。
でも、私達はあなたの卵を獲りにきたわけじゃないの。だからもう暴れないで。」

リュート、ニーナ、ガルは目を疑った。
シーファの言葉に従うように大ガニはハサミを下ろし、大人しくなったのだ。

「シーファ…?」

「お腹のキラキラはお宝じゃなくて卵だったのよ。
ほら。」

大ガニはメスだったようで、卵を抱え、それを守ろうと襲ってきたのだ。
親が親なら、子供もでかい。卵と言っても一抱えはあった。
しかし、驚いているのはそんなことではない。

「そうじゃなくて!
シーファ、あんた、このカニと話ができるわけ?」

「…………話というほどでは…」

「さっき、イルカが助けを求めているとも言ったな。」

それがガルが手を離してしまった理由だった。

「あ…うん。それははっきり聞こえたの…」

泉の方に視線を移すと、イルカが嬉しそうにジャンプを決めていた。
そして、こっちに向かってキュイキュイ鳴いている。

「なんて言ってんだ?」

「………もう、わかんない…ごめん…」

シーファがそう言うとイルカは寂しそうに鳴いた。

「よしよーし、そんなに残念か?」

リュートがイルカの頭を撫でてやる。

「胸の紋章と関係があるのかしら?」

ニーナに言われ、シーファは服の上から紋章に触れてみる。

それに反応したかのようにイルカがまた騒ぎ出した。