海宝堂〜海の皇女〜

ひょっこりと顔を出したそれは、キョロキョロと辺りを見回した後、リュート達の姿を見つけたようで、嬉しそうに鳴いた。

もう、悶絶しそうなくらい可愛いが、今は場所が場所である。
リュート達はばたばたと手を振ったり、口に手を当てて、しーっとやってみたり、とにかく、大ガニを起こして欲しくない。

「なにあのイルカ…どこから来たの?」

「あの泉、海に繋がってるんじゃ…?」

ニーナ達が話していると、ずん…と地面が振動した。

リュートとガルの動きが止まる。
ゆっくり視線を上げると、大ガニのそれとばっちり絡み合った。

「あ…おはようさん。」

リュートが手をあげて挨拶をすると、大ガニはゆっくりとこちらを向き、同じように片方のハサミをあげた。

「これは…通じたのか?」

「バカ!逃げろっ!」

ガルが叫び、リュートは慌てて走り出す。
どんっ!
カニのハサミは間一髪、ガルの後ろに刺さった。
しかし、第2撃はリュートの前に振り下ろされる―――

「うわあああっっ!」

急ブレーキでかわすと、ハサミの両側に2人は別れた。
二発で仕留められなかった大ガニは気分を悪くしたのか、その巨体に似合わぬスピードでハサミを叩きつける。
床はボコボコになり、リュートとガルの行く手を阻む。

「――――わっ!」

開いた穴にリュートは足を取られ、すっころぶ!
真上にハサミが迫る――

「リュートぉっ!」

ガキンっ!
鈍い音がしてハサミは止まった。

ガルが短剣を抜き、ハサミを止めていた。
琥珀色の宝石がはめ込まれたその短剣はかなりごつく、ガルでこそ短剣だか、シーファだと中振りほどの大きさだ。
その上、短剣に触れた箇所からハサミが石になっていく。

「ガルっ!悪いっ!」

「リュート、早くっ!」

シーファが手を差し出すと後ろから、機械的な音が聞こえた。

「シーファ!頭下げてっ!」

後ろでニーナが銃を構える。しかも一丁ではなく、二丁。
二丁の拳銃から激しい音を立てて、炎が放たれた。