海宝堂〜海の皇女〜

ガルがカーブの先をそっと覗くと、ピタリと動きが止まった。

「ガル?」

怪訝そうなニーナの声にガルはゆっくりと振り向いた。その顔はひきつっていた。

「な、なに?なんかいたの?」

ガルは無言でうなずいた。
3人はガルの脇からそーっと廊下の先を覗く。

「…げ。」
「なにあれ…」
「…カニ…?」

一番最初の部屋ぐらいの広さの場所いっぱいの大ガニがどっかりと腰をすえていた。

ゆっくりと体を戻すと、ゆっくりと息を吐いた。

「大亀の次は大ガニかよ…部屋のサイズにあわねぇだろ?」

「部屋の中、うっすらと明るかったわよね?
光を発するコケかなんかがあるのよ。
それを食べて異常な発達をしたとか?」

「それで出られなくなったのね。」

みんなはその場に座り込み、こそこそと話す。

「どうする?このまま引き返すか?」

「バカ言わないでよ。光ゴケに巨大生物ときたら、お宝があるのが定石でしょ!」

ニーナが鼻息を荒くして言った。
リュートも当然、とうなずいている。

「じゃ、もっとよく調べないと…」

もう一度みんなして覗いてみると、大ガニの足元がキラリと光った。

「あった!ほら、足元!」

「でも、カニの向こう側だよ?あれは無理なんじゃ…」

「熟睡してる今がチャンスよ!ほら、リュート行きなさいっ!」

「おうっ…って!1人じゃ無理だっ。」

「じゃあガルと2人!」

ニーナは2人の背中をぐいぐい押した。
いきなりは流石に抵抗があるのか、2人共足を踏ん張っていたものの、ようやく覚悟を決めて中に進んでいった。

「いいの?そんな単純な方法で…」

「大ガニが起きたときがチャンスよ!
あいつらに気を取られてる間に私たちでお宝を取りにいくのよ!」

びしっと親指を立てるニーナにシーファは苦笑いを返した。


そろり…そろり…
リュートとガルは少しずつ大ガニに近付いていく。
ニーナ達も息を飲み、それを見守る。
大ガニの寝息が聞こえそうなほど、静かだ。


「―――キュイっ!」


突然、何者かの高い鳴き声が響いた。
リュート達はびくっと身を跳ねさせる。
鳴き声の主を探すと、部屋にある小さな泉にイルカが一匹顔を出していた。