ドアの先、真っ直ぐ伸びる赤い絨毯の向こうに城の中心である王の席があった。
伝令から聞いて喜びを隠せずにその顔はほころび、ドアを開けた瞬間に立ち上がったその人がトイス王国国王、マーリン・ウ・トイスだ。

頭には王冠、長いローブを身にまとったその姿はどこから見ても王様そのものだ。
シーファはマーリンの前まで足を進めると、片膝を付き頭を下げた。

「父上、シルフェリア・ウ・トイス、長い間国を空けましたが、只今戻りました。」

シーファのかしこまった言葉にマーリンは王座に座り直した。

「……うむ、よく戻ってきた。」

王として威厳のある声であったが、その目にはうっすらと涙がにじんでいた。

シーファが顔を上げると横目に、マーリンの隣に王妃、リタ・トイスの姿があった。
リタはマーリンとは違う感情に顔を歪めていた。

「……母上も、ご心配をおかけしました。」

「い、いえ…無事でなにより…」

震える声を抑えながらリタはひきつった笑顔を見せた。

「母上にお話ししたいことがたくさんあるんです。後でお時間、よろしいですか?」

シーファの言葉にリタが聞こえないほどの悲鳴をあげたがそれは別の音にかきけされた。
バタンっ!
勢いよくドアが開き、まだ少年らしさの残る男の子がシーファめがけて走ってきた。

「姉上っ!おかえりなさいっ!戻られて何よりです!」

カイル・ド・トイス王子は満面の笑顔でシーファに抱きついた。

「…カイル…ごめんなさい…」

シドの話は真実だった。
カイルは暗殺には関与していない。
しかし、シーファの気持ちは複雑だった。
自分の母親に暗殺を企てさせてしまった。
そして…この国を押し付けようとしている…

「シルフェリア。聞きたいことがわしにもある。
お前の後ろにいる者達は?」

シーファは姿勢を正した3人の後ろにまわった。

「この方達は私の命の恩人です。
リュートにニーナ、そしてガルです。」

シーファに紹介されて3人は揃って頭を下げた。