小さくなって見えなくなるまでシーファは島を見つめていた。

「中々の旅立ちだったな!ま、ちょっと地味だったけどよ。」

シーファの正体が街の人達にバレては良くないと出発は港の端からだった。
しかし、街にシーファはいないと噂は流れているだろう、ニーナが買い物中に触れ回ったからだ。
これで、シーファの事を聞かれても、島の全員がいないと言うはずだ。

「みんな、本当にありがとう。これから、よろしくお願いします。」

「何よ、改まっちゃって、気楽に行きましょ、シーファ。
シーファでいいわよね?」

「もちろん。王家の名前は二度と名乗らないわ。
それより…この船、とても素敵ね。甲板も広いし、立派なキッチンまで付いてるのね。」

波を乗り越えここまで共に旅をしてきた船は、小さくはあっても4人が生活しても十分な余裕があった。

「おう!この船は『マシュー』っていうんだ!」

リュートが昨日の怒りはどこ吹く風の満面の笑みで船首をポンポンと叩きながら言った。

ガルの昨夜の言葉を思い出す。
『あいつは単純だからな、お宝の事で頭は一杯だろう。』
途端におかしくなって思わず笑ってしまう。

「なんだよ?おかしいか?」

「ううん、違うの。嬉しそうだな、と思って…
『マシュー』って、由来は?海宝堂みたいにあるんでしょ?」

待ってましたとリュートの目が煌めいた。

「ホントはよ『万周海号』って言うんだけどよ、なんかマシューの方がいいだろ?」

「『万周海号』?」

「この船を作ってくれた人が万周さんって言ってね。船を作ってもらう条件だったの。夢だったんですって、世界の海を回る船に自分の名前を付けるのが。」

リュートの説明にニーナが捕捉を付け加える。これもいつものことだ。