ガルが静まり返った街を見下ろすと、隣からまだ小さく笑う声が聞こえた。
横目で見るとシーファの肩が震えていた。

「笑うなと言っただろ?
何がそんなにおかしい?」

シーファは深呼吸をして息を整えると、窓を開けてもう一度息を吸った。
長い黒髪が風になびいた。

「一番小さな子、いたでしょ?」

「………ああ、いたな。確か、女の子だったか?」

「そう、ミーシャっていって、クルト…私達を呼びに来た男の子の妹なんだけど、よく夜中にトイレについて行くの。」

「………」

またその話しか、と、ガルはため息をついた。

「でもね、いつも寝ぼけているからホントに大変で…」


「……昼間、うちの家族と言っていたのも、孤児院の事だったんだな。」

「ええ、ガルとリュートのやり取りがホントにそっくりで…」

孤児院での子供達の話を楽しそうに、嬉しそうに話し、ガルもそれを黙って聞いていた。
すると、ふと話が途切れてシーファが表情を暗くした。どうした?と聞くと、街を見下ろしながら言った。

「こんなに楽しい時間を過ごしてきたのに、私はあの子達を置いていってしまうのね…」

「シーファ…それは…」

「あの子達の親はね、みんな海の事故で亡くなったの。そんな子達を、ペックさんや街の人達がみんなで世話をしようって、孤児院が作られたんですって。みんなは孤児院だなんて呼ばない、僕らの家だ、って言うの。
私も同じだったのね…本当の親のいない私がみんなと助け合って生活してきた…
本当の家族のようなみんなに恩も返さずいなくなってしまう…家族失格ね。」

寂しそうな笑顔をガルは見つめた。そして、ゆっくり首を降った。

「あんたは、奴らから逃げるためにここを出ていくのか?王になることから逃げるためにここに来たのか?」

「違うわ。
私は海を旅したかった。水平線の向こうを見に行きたかった。
決して、逃げるためなんかじゃない。ただ、諦めたくなかったの。」

シーファの目には決意が光っていた。