わなわなと震えるニーナがばっと顔を上げて、さっきの男の行方を探し始めた。

「おい、どうしたんだよ?」

「………られた…」

「…は?」

「財布、盗られたぁ!」

「なにぃっ!さっきの奴か!」

2人は急いで男の後を追いかけた。しかし、もうどこにも姿は見えない。
ニーナは焦って頭を抱える。

「ヤバイっ…ガルに食費渡してその残りが全部あの中にぃ〜」

「今日の宿、どうすんだよ〜あの金稼ぐのにどれだけの苦労を…」

「わかってるわよ!私だって一緒に苦労したんだからっ!
とにかく、探しましょう!確か…茶色のダサいベスト着てた!」

茶色のベストに大柄な体。これだけの情報を頼りに2人は街を走り回った。
しかし、初めての見知らぬ街に、捜索は難航を極め、焦りだけが募っていく。

何度目かの角を曲がった所で、とうとう2人は倒れ込んでしまった。

「…ダメ…見つからない…」

ニーナは泣きそうな声で呟いた。

「この島、小さいと思ったら結構入り組んでやがるな…はぁ…」

最早、諦めムードの中、リュートが近づいてくる足音に顔を向けると、ニヤリと嫌な笑いに顔を歪めた男が角から姿を現した。

大柄で…茶色のダサいベスト…手にあるのはニーナの財布…


「あーーーーー!ダサいベストぉ!」

リュートの叫びにニーナがはっと顔を上げ、男は走り出した。

「待てっ!んのやろー!」
疲れなんか忘れて2人は男を追いかけた。
男も必死でありとあらゆる角を曲がって2人を引き離そうとする、が、こっちだって見失うわけにはいかない。

と、細い路地裏を走っていた男がよろめいて、ゴミバケツをはじきとばし、バランスを崩した。

「!リュート、今っ!」

「よぉっしゃあ!」

リュートは自分の腰に手を伸ばし、鞭を手にすると、男の足、めがけて伸ばした。
鞭は男の足を見事に絡めとり、派手に転ばせた。
男は頭からゴミをかぶって気絶した。

「あったぁ!
…ったく、無駄な体力使わせないでよね!」

男から財布を取り返し、ニーナは気絶したままの男を睨みおろした。

「なんか、結構物騒なんだな、この街。」

男はそのままに、2人は改めて露天の並ぶ通りに戻ることにした。