海宝堂〜海の皇女〜

「神殿の石碑にあった言葉を覚えてる?」

ニーナはまとめた考えをリュートに話し始める。
これもいつもの事。

「確か…黒い流れがどうとか…
!紋章の事もあったじゃねぇか!」

「ええ、そうなんだけど、私は首飾りやなにか形のある物に紋章が描かれていて、それが鍵になるんじゃないかと思ってたんだけど…」


「ああ、それでいいんじゃねぇか?」

「ううん、この女神像を見る限り、そういう物は身に付けていないし、もし、石碑にあった『紋章』が、この胸の紋章を指してたら、王様の一族以外は入れないって事になるわ。」

「それって…どういうことだ?」

「つまり、私達じゃ入れないって事よ。ううん、私達だけじゃなくて人間には無理ってことね。文字通り神様だけの場所なのよ。」


「ええーーっ!やだよっ!せっかく見つけたのによぉ〜っ。
こうなったらいっそのこと、あの神殿の扉、壊して、中に入ろうぜ!」

リュートは思いっきり顔を歪めて悔しがり、すぐに目をきらめかせて、拳を握った。

「ダメよ、仮にも海の王様の神殿にそんなことしたらこれから先、旅が続けられなくなるかもしれないじゃない。」

「…………………じゃ、どうすんだよ、俺は諦めねぇぞ!」

ぷくっと頬を膨らませて言うリュートにニーナは溜め息を一つ。

リュートがこうなったら何があっても譲らないとニーナもまた理解していた。

「分かってる、とにかくもう少し話を聞いて、アイテムの伝説や噂がないか探しましょう。」

「よしっ!」

納得したリュートを見て、もう一度溜め息をつくと、ニーナは辺りを見回した。

「とりあえず、ガルと合流しましょう。このこと伝えなきゃ。」

「あのやろう…まーだ、買い物してるんじゃねぇだろうなぁ…」

2人が露店が並ぶ通りへと戻ろうとしたときだった。ニーナの正面に突然影が現れた。

「きゃっ…とごめんなさい。」

まともに後ろにいた男にぶつかってしまい、ニーナは2、3歩後退した。

「気をつけろ!」

低い声で男は怒鳴ると、ニーナを横目で睨んで去っていった。

「何やってんだよ〜案外、お前もどんくさい…」

リュートが男を見送ってからニーナに視線を戻すと、その顔は蒼白になっていた。