「ごめんなさい、どうぞ。」

女は手を引っ込めると笑顔で言った。
ガルが香辛料に視線を戻すとそれは残り一袋だった。再び女に視線を向けてガルは言った。

「いいのか?あんたもこれが欲しいんじゃねぇのか?」

女は笑顔のままで言った。

「これはまだ残ってますし、私はここに住んでいるからまた買えます。
あなたは旅の途中だから買えないとこまるでしょう?」

それじゃ…と、女はガルに背中を向けた。

「…………」

「おい、にいちゃん買うの?買わないの?」

「あ、ああ…買うよ。」

香辛料を買うと、ガルは女の姿を追っていった。


「おい、何故俺が旅人だと?」

突然、後ろから声をかけられて女は目を丸くしてガルを見上げ、ガルに向き直り、

「その魚は、素人には難しくて料理がしにくいのに、それを買っていて、ここらへんじゃ見たことないから、旅をしているのかなと…あ、違ってました?それなら謝り…」

「いや、違っていないが…あんたはこの島の人間をすべて把握しているのか?」
女の言葉を遮ってガルはまた疑問を投げ掛けた。

「いいえ、料理に関してだけですよ、しかも魚限定です。」

人差し指を立てて笑う女は滑稽に見えて、思わずガルも笑顔がこぼれた。

「やっぱり…」

女のつぶやきにガルは眉をしかめる。

「あ、いえ…その…やっぱり料理好きに悪い人はいないなって思っただけで…」

女は慌ててフォローするがその姿はまた滑稽で…

「俺が料理好きかは分からんだろう?」

「料理好きじゃなきゃそんなグロテスクな魚は買いません。あの香辛料をその魚に合わせるのも。
素材を最高の味で、そういう人は、悪い人ではないでしょう?どんなものだって生きてて、その命をいただくんですから。」

初めてだった…ガルの姿を見て、料理好きを意外だと言わなかったのは…

そして、価値観を変えられる感じもまた初めてだった…