頬に突き刺さるかのように、風が冷たい。陽が昇っていても、冷え冷えとしていた。
辺りは静まり返っている。

青年は階段を下り、地下通路を歩き続ける。
瓦礫(がれき)が崩れ落ち先に通れない通路は全て記憶しており、いき詰まることなく彼は進んでいく。

「静かすぎて気味が悪いな……」

青年の住んでいる街は旧市街と新市街の二つにわけられており、彼は今、旧市街にいた。旧市街の地下通路は戦前からあり、行動しやすい分、敵と出会(でくわ)す危険性も高い。

「やっぱり敵は旧市街(ここ)にあまり目を向けていないか」

街の住民、兵士や軍人、この街に住んでいる全ての者たちは新市街の地下に住んでいる。
旧市街は元々存在していた地下通路や地下室が多いため、巨大な地下街を作り難かったためだ。
故に旧市街に人は誰もいない。敵もそのことには気付いているようだ。

「誰もいない分、敵は此処を占領しやすいから、偵察も兼ねて兵士の何十人かは此処にもいると見せておかないと」

毎日数十人の兵士たちが交代制で旧市街に潜み、見張っている。あまり旧市街に目を向けていないといっても、やはり何人かの敵が発見されることがある。

「旧だからといっても、絶対に乗っ取られるわけにはいかない」

機関銃を肩から掛け、いざという時のために、手には拳銃が握られていた。

警戒しながら階段を上り、辺りを見渡す。街中は静まり返っている。
気を抜かないようにして、青年は寂れた街中を進んだ。崩れ落ちた建物は、新市街よりかはまだ少しましだ。