サファイヤアンドロイドの夢

「食事の用意をさせる。部屋に戻っていろ。」


そのまま踵を返し、ライラの部屋に行こうとすると、男がそのまま着いて来た。


「おまえの部屋はあっちだ。そこを右に曲がればすぐ……」


部屋がわからないのかと思い説明しようとすると、男は拗ねたように唇を曲げ、私を見ている。
帰り方がわからないわけでは無さそうだ。


「連れて帰って欲しいとでも言いたいのか?」


男が笑う。
唇の端を切っているので、しゃべると相当に痛いらしい男は、言葉を交わさずに、私と意思の疎通を計るという技術を身につけつつあった。


「どうやら自分の立場がわかってないらしいな。」


私は、ため息をついてからその台詞を口にする。
男は、きょとんと私をまっすぐに見る。
その目を見て、わかっていないのは当然なのかもしれない、と考えを改めた。
私のこの国での立場はおろか、人間とアンドロイドの関係すら飲み込めていないに違いない。
何せこいつは、非常に高い可能性で記憶喪失なのだそうだから。