サファイヤアンドロイドの夢

記憶が戻るには、もう一度強いショックを与えるか、抹消したいと思った記憶のトラウマを取り除くかのどちらかだそうだ。そのどちらとも危険が伴う、とドクターリンは言う。


「時間が経てば、自然と思い出す場合もありますよ。」


ドクターリンは私たちを検査室から送り出す時に、そう言った。

そんな悠長な事をしている時間はない、と思ったが、男が横にいる手前、口には出さなかった。
当の男は私を見て、何か言いたそうに唇を動かすが、その言葉を発せずに飲み込む。


「どうした?」


男は、昨日よりも腫れが酷くなった顔で、駄々っ子のように呟いた。


「腹が減った。」


「は?」


何を言うのかと身構えていた私は、拍子抜けして笑い出す所だった。
憮然とした男の態度を見て、笑い出すのだけは堪えたが、返事の声音に笑いが含まれていたのは男でも気づいただろう。